このような疑問にお答えします。
村上春樹さんの『1Q84』の再読を面白くする方法は、
・再読の前に、小説家3人の今回紹介する作品を読んでおくことです。
・その作品を読んでおくことで、作品に関連するシーンを味わい深く読むことができます。
☆この記事を書いている人の紹介
・この記事を書いている私は、小説を中心に読書が好き。2019年は250冊読了
・村上春樹さんの本は、長編・短編は全部読みました。今は再読をしたり、村上さんが翻訳した作品を1冊ずつ読み進めています。
1人目の小説家はドストエフスキー
1人目の小説家はドストエフスキーです。
ドストエフスキーとは、
1821‐1881。19世紀ロシア文学を代表する世界的巨匠。父はモスクワの慈善病院の医師。1846年の処女作『貧しき人びと』が絶賛を受けるが、’48年、空想的社会主義に関係して逮捕され、シベリアに流刑。この時持病の癲癇が悪化した。出獄すると『死の家の記録』等で復帰。’61年の農奴解放前後の過渡的矛盾の只中にあって、鋭い直観で時代状況の本質を捉え、『地下室の手記』を皮切りに『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』等、「現代の予言書」とまでよばれた文学を創造した
商品の説明より
BOOK2・第11章(青豆)均衡そのものが善なのだ
「BOOK2・第11章(青豆)均衡そのものが善なのだ」では『カラマーゾフの兄弟』の話が登場します。
リーダーと青豆が対決する『1Q84』の中でも外すことのできない重要な場面で『カラマーゾフの兄弟』の話が出てきます。
善悪とは静止し固定されたものではなく、常に場所や立場を入れ替え続けるものだ。ひとつの善は次の瞬間には悪に転換するかもしれない。逆もある。ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』の中で描いていたのもそのような世界の有様だ。
「1Q84・BOOK2』より
また話は本筋ではないのですが、村上春樹さんはご自身で翻訳された本『グレート・ギャツビー』のあとがきで次のように語っています。
もし「これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本を三冊あげろ」と言われたら、考えるまでもなく答えは決まっている。この『グレート・ギャツビー』と、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』と、レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』である。
「グレート・ギャツビー』より
『1Q84』だけではなく、村上春樹という作家を理解する上でも読んでおくといいかもしれません。
BOOK3・第10章(牛河)ソリッドな証拠を集める
「BOOK3・第10章(牛河)ソリッドな証拠を集める」では『罪と罰』に関連する話が登場します。
牛河が自分の子供時代を振り返るシーンで次のように語っています。
俺は言うなればソーニャに出会えなかったラスコーリニコフのようなものだ、とよく思ったものだ。
『1Q84・BOOK3』より
この場面での牛河の心境を理解するには、『罪と罰』を読んで、ソーニャとラスコーリニコフというのがどういう関係と意味があるのかを知っておくといいです。
なお、『罪と罰』は以下の記事でも書いていますので、参考にして下さい。
2人目の小説家はカフカ
2人目の小説家はカフカです。
カフカとは、
1883.7.3‐1924.6.3。ユダヤ系のドイツ語作家。オーストリア=ハンガリー帝国の領邦ボヘミア王国(現在のチェコ)の首都プラハに生まれる。民間保険会社、のち労働者災害保険局に勤務の傍ら、小説を発表。生前の読者は限られていたが、第二次世界大戦後の実存主義ブーム中に再発見され、世界的名声を得る。
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BOOK3・第16章(牛河)有能で我慢強く無感覚な機械
「BOOK3・第16章(牛河)有能で我慢強く無感覚な機械」ではカフカの『変身』に関連する話が出てきます。
牛河は虫になったザムザのように、その丸くいびつな身体を床の上で器用に動かし、筋肉をできるだけほぐした。
『1Q84・BOOK3』より
ザムザは『変身』に登場する人物の名前です。
『変身』を読むなら「かわりみ」と訳している上記の多和田葉子さん訳の本がオススメです。
私は『変身』を何度も読んでいます。また牛河というキャラクターがとても好きです。
『1Q84』の中で牛河が家族からまるで『変身』のザムザのような扱いを受けていて、個人的には牛河はザムザではないかと思っています。
BOOK1・第24章(天吾)ここではない世界であることの意味はどこにあるのだろう
「BOOK1・第24章(天吾)ここではない世界であることの意味はどこにあるのだろう」では村上春樹さんが『変身』の後日譚として書いた『恋するザムザ』を連想するシーンがあります。
天吾のガールフレンドが「夜見る夢」のことを天吾に語るシーンです。
それは思い出せない。そういえば、どんな料理だったんだろう。でもね、料理の内容はそこでは問題じゃないの。それがアツアツのできたてだったということが問題なの。何はともあれ私は椅子の一つに腰を下ろして、そこに住む家族が戻ってくるのを待っている。
『1Q84・BOOK1』より
上記のシーンを読んだ時に、私はすぐに『恋するザムザ』のワンシーンがパっと思い浮かびました。
『恋するザムザ』を読むことで、『変身』→『恋するザムザ』→『1Q84』が一つの流れでつながっているような感覚を持つことができます。
3人目の小説家はレイモンド・チャンドラー
3人目の小説家はレイモンド・チャンドラーです。
レイモンド・チャンドラーとは、
1888年シカゴ生まれ。1933年に短篇「ゆすり屋は撃たない」で作家デビューを飾る。1939年には処女長篇『大いなる眠り』を発表。1953年に発表した『長いお別れ(ロング・グッドバイ)』で、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長篇賞に輝いた。1959年没。享年70
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BOOK1・第3章(青豆)変更されたいくつかの事実
「BOOK1・第3章(青豆)変更されたいくつかの事実」ではレイモンド・チャンドラーの『リトル・シスター』を連想するシーンが出てきます。
でもそれはアイスピックではない。ただアイスピックに似たかたちをとっているだけだ。氷を砕くためのものではない。
『1Q84・BOOK1』より
『リトル・シスター』では以下のようなシーンがあります。
血は出ていなかった。ただの一滴も。アイスピックを使った一流のプロの手並
『リトル・シスター』より
私は、先に『1Q84』を読んでいたのですが、『リトル・シスター』のこの場面を読んだ時にすぐに「あっ、青豆だ」と思いました。
BOOK3・第7章(牛河)そちらに向かって歩いていく途中だ
「BOOK3・第7章(牛河)そちらに向かって歩いていく途中だ」では、牛河が自分の持っている能力を語るシーンがあります。
しかし俺には、ほかの人間があまり持ちあわせていないいくつかの資質がある。天性の嗅覚と、いったん何かにしがみついたら放さないしつこさだ。
『1Q84・BOOK3』より
『リトル・シスター』は「マーロウもの」と言われているシリーズものの中の一冊になっています。
主人公・私立探偵フィリップ・マーロウの事件・探偵を巡る物語です。
そのマーロウの持っている資質が、牛河の持っている資質と同じであるように私は感じます。
牛河はまるでマーロウの魂の一部を引き継いでいるかのようです。
「マーロウもの」のオススメは上でもご紹介した村上春樹さんのもし「これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本を三冊あげろ」と言われたらにも入っている『ロング・グッドバイ』ですね。
まとめ
『1Q84』の中には、今回ご紹介した3人の作家以外の話も出てきます。
ディッケンズやチェーホフですね。
改めて、村上春樹さんは作家であると同時にたくさんの本を読んでいる「読書家」であることがわかります。
村上春樹さんも読んできた今回ご紹介した3人の作家の作品を読むと、また初読の時とは一味違った『1Q84』を楽しむことができると思います。